事業紹介

開発の背景

 高齢社会をむかえ、これまで以上に痛みに苛まれる人口が大幅に増加することが予想されます。そのため、安全かつ効果的な鎮痛剤の提供は、痛みに苦しむ患者のQOLを向上させて社会の医療負担を軽減させると同時に、社会の労働生産力の損失をも抑えることが期待でき、これからの日本の医療・経済にとって解決を急ぐべき課題となっています。
 鎮痛薬の市場は巨大で今後の需要の伸びも大きいと予想されています。世界の鎮痛薬市場は、約400億ドル(2004年)、うち神経因性疼痛(糖尿病性疼痛、がん性疼痛、HIV性疼痛、手術後ニューラルギアなど)は25億ドル(2004年)で、2010年には大きく成長して67億ドルに達すると予想されています(出典:調査会社 エスピコムビジネスインテリジェンス社)。
カイロスファーマ(株)が開発を目指す新規鎮痛剤の適用症例であるがん性疼痛は、がん進行の段階で33%から50%の人が痛みに苦しみ、末期には70%以上になるといわれています。現在これらの疼痛緩和には、麻薬系鎮痛剤、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、抗うつ剤、抗てんかん剤が投与されています。
 モルヒネなど麻薬系鎮痛薬には、副作用(悪心、嘔吐、 呼吸抑制、 躯幹筋剛直、腸管運動抑制、膀胱緊張、高血圧など)や耐性、依存性などがあり、非ステロイド系抗炎症薬[NSAIDs:アスピリン(サリチル酸)、ジクロフェナク(ボルタレン)、インドメタシン(インダシン)、イブプロフェンなど]は、穏やかな鎮痛作用と共に、胃潰瘍や消化管出血の副作用があることが知られています。最近では新しいタイプの消炎鎮痛薬(COX-2を選択的阻害する薬剤など)が開発されていますが、副作用(血栓)のために回収されるなど、満足できる鎮痛薬の開発は進んでいないのが現状です。
 cPA誘導体は、これら既存の鎮痛薬に見られる副作用が少ない、効果的な新規鎮痛薬として大きく期待が持てる薬剤であると考えられます。

図1 鎮痛剤をめぐる市場環境

事業の目的

 お茶の水女子大学の室伏教授が世界に先駆けて発見した生体中に含まれる環状ホスファチジン酸に、モルヒネと比較しても劣らないほどの極めて強い鎮痛作用がある事を見出したので、これらの知見を基に、新たな鎮痛剤の開発を目指すものです。
 今後、安全性及び薬効の確認、製法を確立するとともに、鎮痛薬あるいは鎮痛補助薬としての鎮痛メカニズムを科学的に解明し、これらを権利化し、さらに新規誘導体の探索・薬効確認、新規用途開拓、製法開発することを目的としています。
 これまで、お茶の水女子大学において、科学技術振興機構(JST)の支援を得て、既存の鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬にみられる副作用のない、安全かつ効果的な新規鎮痛薬の開発を目指し、研究を進めてきたところです。
本会社は、お茶の水女子大学との連携を強固に保ちつつ、新規鎮痛剤の開発を通じて、痛みに苦しむ患者のQuality of Life(生活の質:QOL)の向上など社会的課題の解決に大きく貢献することを目指します。

事業コンセプト

 本会社は、新規鎮痛薬の開発を目指す、研究開発会社です。
 環状ホスファチジン酸が有する高い鎮痛効果に、新薬としての可能性、将来性があると考えています。
 開発の対象疾病は、神経因性疼痛、特にがん性疼痛を対象とすることとしていますが、将来的には糖尿病性疼痛、変形性関節症、繊維筋痛症など痛みに関連する疾病領域を視野に入れています。
 今後、鎮痛薬あるいは鎮痛補助薬としての鎮痛効果の有効性確認、原薬の合成法を確立していきます。また、大学と連携しつつ、鎮痛作用に関与する受容体と情報伝達系の解明などに取り組み、鎮痛メカニズムおよび作用機序を科学的に解明していきます。
 当初は化合物2ccPAに焦点を絞り、原薬の合成方法の確立の過程で得られた知見を基に、前臨床試験・臨床試験のための原薬を外部に製造委託して調達し、製薬会社に供給することを目指しています。

研究開発の内容

室伏きみ子 お茶の水女子大学教授は、同教授が世界に先駆けて生体中から発見したcPAを用いて、中枢無傷の麻酔ラット下肢神経に電気刺激を与え、心拍数増加と心臓神経の反射電位を指標としたテストを行い、cPAがモルヒネと比較しても劣らないほどの極めて強い鎮痛作用があることを発見しました。その成果に基づいて、cPAおよびcPA誘導体を、安全かつ有効な新規鎮痛剤として開発することを目指しています。
現在は、高い鎮痛効果を示す誘導体2カルバcPA(2ccPA)をターゲットとして開発を進めているところで、この2ccPAはモルヒネやガバペンチン(非麻薬系既市販品。抗うつ薬だががん性疼痛に対して鎮痛補助薬として使用されている)に劣らない鎮痛効果を持つことを確認しています。   
実験は、上記のテストに加えて、慢性疼痛の評価にも利用されている、急性持続性疼痛のモデルとして確立されたホルマリンテスト、を行いました。ラットに披験物質を静脈注射して、ホルマリンによる痛みからの忌避行動時間数の変化を調べた結果、2ccPAを3mg/kgまたは10mg/kg投与した場合、モルヒネと同等またはそれ以上に忌避行動時間数が短くなり、ホルマリンによる痛みを強く抑制することを示しました(図2)。
 また、神経因性疼痛を評価する試験では、信頼性の高い評価法とされている坐骨神経結紮(けっさつ)による試験法を用いました。結紮6日後に被験物質を静脈注射し、10分、2時間、4時間後に足の裏に赤外線を照射して、鎮痛効果がきれて逃避反応を起こすまでの時間を調べました。その結果、2ccPAを1mg/kg、3mg/kg、10mg/kg投与した場合、ガバペンチン90mg/kgを投与した場合と同様に逃避反応を起こすまでの時間が長くなり、熱刺激による痛みを顕著に抑制することが示されました(図3)。
 さらに、経口投与においても、良好な鎮痛効果を示すことを確認しています。
cPA誘導体は、これまでにない効果的な鎮痛剤として、その有効性、将来性が期待されます。

今後の事業展開

 がん性疼痛を適用症例とする新規鎮痛剤の開発を目指していきますが、将来的には、糖尿病性疼痛など痛みに関連する疾病領域への適用も視野に入れています。今後、他大学や民間企業との共同研究をさらに推進し、製薬会社へのライセンス、共同開発により、前臨床段階の試験、開発、原体供給体制の整備を着実に推し進めつつ、製薬会社へのライセンス、共同開発などを進めて、臨床試験(第1相)以降の開発に早く着手していきたいと考えています。